このページは、メールマガジン「あなたと地酒と音楽と」の、JAZZアルバム紹介コーナーの
バックナンバーです。
【あなたと地酒と音楽と】 第176号 2011.04.15.発行より
《JAZZと地酒のおいしい関係》
震災のあと、ライブにも頻繁に行くし、お酒の会も積極的に行うし、私の行動は
とてもポジティブです。これは、ただじっとしているのが辛いから。多分皆さんも
同じ心理なのではないでしょうか。義援金を出す以外に何が出来るのかと考え
ると、仕事も趣味も、目の前のやれることをいつもどおりにやる。
ただそれに尽きる。
そんな中、先日浜松で行われたピアノとヴォーカルのデュオライブ。当初、お客
が集まるのでしょうか?とおっしゃっていたヴォーカリストの方の心配は杞憂に
終わりました。立ち見が出るほどの盛況ぶり。(立ち見は遅れていった私です。)
心が癒しや安息を求めているのでしょう。音楽に触れるほんのひと時だけでも
現実を忘れたい。でも、現実は容赦なく訪れる。そのための活力となるのであ
れば、音楽もお酒も、その存在はちゃんと意味のあるもの、と私は信じています。
そのライブのピアニストは、大石学さんでした。彼のソロピアノは、幾度となく聴
いていますが、いつ聴いても美しい。 でも何回聴いても硬質な空気を漂わせる。
簡単に言うと、とっつきにくいのです。 でも、今回のライブは違いました。そして
その内容がそのまま再現されている、このアルバムも。
●『WATER MIRROR』 大石学 ピアノ・ソロ
【曲目】
1. Calm
2. Water Mirror
3. Pleasure
4. After The Rain
5. Hanauta
6. How Insensitive
7. 'Round Midnight
8. Alone Together
9. Fly Me To The Moon
10. TOSCA
11. Ocean
【Personnel】
Manabu Ohishi - piano
アトリエ・サワノから出た新譜は、硬質さを漂わせながらも、曲の端々から
歌ごころが滲み出ています。オリジナルとスタンダードが半々の構成なれど
どの曲も美しい響きに綾取られながら、実に魅力的に心に届き、やがて
しっとりと濡らす。 聴けば聴くほどに、しとやかに沁みる。
ライブ会場での印象は 音圧が高く 輪郭が鮮明で トレースの陰影が濃い。
そしてなにより ピアニッシモが ・・・うん 強い。
立ち見の私は、バーのマスターが冷蔵庫の電源を抜く姿を目撃しましたが
確かに機械音が耳障りになる瞬間が幾度かありました。
シーンと静まり返った会場に鳴り響くピアニッシモの 繊細で しなりのある
強い響き。 これこそが、彼のソロピアノの大きな魅力であり、聴き所の一つ。
1曲目の『Calm』は、癒しの歌心に満ち溢れたナンバー。でも単なるヒーリング
音楽ではありません。テーマのメロディを聴いていると、思わず口ずさむ自分
がいました。
2曲目の『 Water Mirror 』 この曲こそ、ピアニッシモの美の極致。
ピアニッシモ は単に小さな音ではないのです。 ごく弱く が本来の意味か
もしれませんが、彼のピアニッシモは、音にしなりを湛える強さ を持ち合わ
せており、リスナーを一点に集中させるパワーすら感じます。
4.の『After The Rain』が流れると、オリジナルなのに、どこかで聴いたような
デジャブな感覚に囚われます。十代の頃、思いっきり背伸びをして観たフラ
ンス映画のバックに流れていたような、そんな感覚です。
5.の『Hanauta』 これは浜田省吾の曲でしょうか。いえいえ、そんな筈はあり
ません。大石さんという人は、ビジュアルは修行僧のような無表情で固いイメ
ージがありますが、こんな曲を書けるんだから本当は心の熱い方なんですね。
このアルバム、スタンダードもいいですよ。 まずは6.の『How Insensitive』
アントニオ・カルロス・ジョビンの書いた、せつないメロディの失恋の曲。
「Insensitive」とは「鈍感な」「無神経な」という意味ですが、彼もしくは彼女が
愛の告白をしてくれたあの時に、自分はなぜあんなに冷たい態度をとってし
まったんだろう・・・。と後悔する歌詞があります。ピアノが、ちょっぴり苦い
心情を吐露するかのように、センシティブに、でも美しく語ります。
7.の『'Round Midnight』 言わずと知れたセロニアス・モンクの超有名曲。
この曲に関しては音が多いのが特徴。原曲の、素材の良さを生かしながら
調理する名料理人のような仕事が楽しめます。
8.の『Alone Together』 もそんな仕事を感じさせる白眉なバージョン。
何百回(かなりオーバー) と、いろんなアーティストの演奏するAlone Together
を聴いているが、この解釈も実にいいですね。
基本的に 奇のてらったアレンジは好きではなく、かといってありきたりのパタ
ーンや進行では物足らない。そんなジャズファンのわがままを、即興の可能性
と深さを覚醒させながら叶えてくれる出色の演奏だと思います。
ご本人がHPで書いていらっしゃいますが、澤野工房からアルバムを出すよう
になり、売上枚数が倍増したそうです。このアルバムも、今までライブに縁の
ない方が手にするでしょうから、大石さんのファンがもっと増えるのでは。
良いものを造り続けていれば、いつかきっと思いは通ずる。これって 日本酒
も同じですね。
試聴はこちら
http://www.jazz-sawano.com/products_258-0-1.html
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