山形県 竹の露合資会社を訪ねて  
2002.03.03.訪問 


酒蔵に行きたい…。そんな衝動にかられることが、たまにあります。未知のお
酒を探求する場合もあれば、既にその美味さを認識したあとに、そのお酒の出
生地をこの目で確かめたくなる。そんな思いの時もあります。今回はまさに後
者のパターン。思えば、このメルマガも衝動的に始めたわけですから、今回の
衝動も大事にすべきである。と自分に言い聞かせながら、計画を立てました。

訪問先は、昨年の秋からお取引をさせていただいている、『白露垂珠』の竹の
露合資会社。製造責任者の相沢政男さんに、3月の日曜日にお伺いしたいとメ
ールを送ったところ、すぐにお返事をいただき、
「日曜日も仕込んでいますので作業体験みたいになってしまうかも知れません
が大丈夫です。宿は蔵座敷へどうぞ。JRかANAどちらになってもお迎えに
上がりますので到着時間をお知らせください。楽しみにお待ちしています。」
とのこと。

願っても無いお返事です。仕事柄、酒蔵にはいろいろと行っているつもりでも、
蔵に泊めていただくとなると話は別。SSIのセミナーで、酒蔵研修も2回ほ
ど経験しましたが、蔵には泊めてもらえませんでした。ましてや、蔵座敷で作
業体験も有りとは。浮き立つ心を押さえきれず、思わず納品先の居酒屋の大将
に話したところ、「オレも行く」「でも店があるでしょ」「一日は休みにする。
もう一日は従業員の皆に任せる。それも勉強だ。」というわけで、大将との二
人旅と相成りました。

【衝動】

【MAXあさひ号】

山形県へ行くのは全く初めて。到着時間を知らせるにも、どこの駅で降りるの
かすらわかりません。いろいろとお聞きした結果、上越新幹線で新潟まで行き、
そこから在来線に乗りかえ鶴岡駅で降ります。浜松を朝8時に出て、鶴岡駅着
が午後2時過ぎ。6時間あまりの鉄道の旅となりました。東京から新潟までは、
MAXあさひ号。2階建車両の1階部分の指定席だったのですが、これがひど
い車両。景色が何も見えないのです。越後湯沢あたりは、一面銀世界だったよ
うですが、見えるのは山頂の白い部分だけ。ほとんどの車窓は防音壁の無機質
な風景と、駅のホームの人の足首。 よくもこんな車両作りやがったなJR東日本。
これで2階席と同じ料金かよ!(`_')

でも新潟から鶴岡までの在来線は、荒波がしぶきを上げる冬の日本海が望めま
す。その雄大な景色は、さきほどまでのフラストレーションを癒してくれたので、
許すことといたしましょう。

【出羽三山】

鶴岡駅では、相沢さんが出迎えてくださいます。当日は雪もなく天気は上々で
したが、風が冷たい。広大な庄内平野と神秘的な出羽三山の姿を目の当たりに
し、心が洗われる思いです。出羽三山とは、月山・湯殿山・羽黒山の三つの山
の総称。開山は、推古元年(593年)で1400年以上の歴史を有する、 山岳信仰
・修験霊場として高名な山々です。駅から蔵のある羽黒町猪俣新田までは車で
約20分。竹林に囲まれた蔵の様子を一瞥し、安政五年からこの地で酒造りを
されていたという伝統と重みを感じざるを得ません。“竹の露”という銘にも
納得です。

蔵に着くや、まず案内されたのが麹室。ちょうど美山錦の出麹と重なり、いき
なりの作業体験。初添え・仲添え・留添えと三段に仕切られた棚に、麹蓋から
集められた麹を運び、放冷し繁殖を止める作業です。麹独特の香りに触れると
ともに、工場長の寒河江(さがえ)さんの指示のもとスムースにこなすことがで
きました。ちなみに寒河江さんは、冬は麹屋を担当。

【若きスタッフ】

次の作業は2時間後。その間に蔵を案内していただき杜氏さんともご対面。
羽黒杜氏の本木勝美氏。42歳。この蔵の若き杜氏であり、“羽黒酒米研究部
会員”として自らの田圃にて酒米を作り続ける農業青年でもあります。思えば、
このお蔵のスタッフは皆さん若い人ばかり。製造責任者の相沢さんは40歳だ
し、釜屋の渡辺さんは35歳。東京農大醸造科卒の阿部さんはまだ25歳。
更に今年から新卒の社員、菅井君22歳が既に修行中と聞き、溌剌とした若さ
とエネルギーに、未来への希望を感じさせてくれます。

そしてスタッフがただ若いだけではなく、一貫した品質本意の造りの姿勢から
も希望を感じとれます。代々当主が杜氏を務めるという伝統があり、現在の社
長・金野松弘氏も、数年前までは杜氏を兼ねておられ、今でも毎朝麹室に入り
黙々と作業を行なっておられる。そんな社長の寡黙で厳しい目が、若いスタッ
フの皆さんにとって良き刺激となり、この蔵の酒質に反映されている。そんな
思いを強くしました。



鶴岡駅前にて。大将と。

お蔵のまわりを竹林が囲みます。

煙突は、今はもう使われておりません。

【一麹、二麹、三麹】

酒造りでは昔から『一麹、二もと、三造り』と言われます。これは、麹が日本
酒の製造工程の中でもとりわけ重要な役割を担っていることから来るのですが、
杜氏さんや相沢さんの話を聞いていると、この蔵の場合『一麹、二麹、三麹』
と言えるほど、麹造りに力が入っています。麹室も一階と二階の二ヶ所にあり、
精米歩合60%の特別本醸造クラスの麹でさえ、二階の麹蓋で行なうという徹
底さ。レギュラー酒(普通酒)での糖類の添加を全廃されたのも、麹造りがグレ
ードアップしたからだそうです。

白露垂珠をお試しになった方ならわかると思うのですが、このお酒は旨みと引
き(キレ)のバランスが非常に良いのが特徴。これは麹から来るもので、製麹を
入念に行なうことで、上質の成分が生成される。それが『完全発酵』へと結び
つく。相沢さんのお話を要約するとそういうことです。全国新酒鑑評会や、
北清酒鑑評会
で連続して金賞をとっておられるのも、頷けます。


完成して間もない麹室。きれいです。

冬は麹屋の寒河江さん。

『切り返し』を行なう若い面々。

【蓋麹法の作業体験】

杜氏さんたちに混じって、『切り返し』の作業をやらせていただきました。
麹が塊状になっているのを手でほぐしながら、ならす作業です。私は他の蔵で
経験したことがありますが、同行の大将は麹に触れるのも初めて。米の温かさ
と独特の香りに感動していました。

『仲仕事』のお手伝いもさせていただきました。写真にあるように麹蓋に麹を盛
る作業です。相沢さんが手本を示してくださり、そのとおりにチャレンジしましたが、
見るとやるとでは大違いで、これがなかなかむずかしい。四方を台に当てながら
麹を麹蓋の真中に堆(うずたか)く集めるのですが、どうしても隅に残ってしまうの
です。それで杜氏さんや相沢さんの作業を見ていてリズムがあることに気づきま
した。トトトントン トトトントン このリズムでやると、うまく真中に集まったのです。(^O^) 
(JAZZを聴いていたのが役立ったかな?!)


『仲仕事』を行なう本木杜氏(中)
相沢さん(左)、渡辺さん。

『切り返し』を手伝う(?)片山。
麹米って温かいですね。

『仲仕事』にチャレンジする大将。さすが板前さん、器用です。


【天然温泉】

夕飯の前に、蔵の近くにある羽黒町営の温泉施設へ。露天風呂まであるピカピ
カの天然温泉がなんと350円という、銭湯なみの料金です。露天風呂につか
っていると、雪がちらほら。もう極楽でした。この温泉、町民の方は自由に無
料で汲みだすことができます。常に75゜Cのお湯を、タンクに詰めて持ち帰れる
のです。相沢さんも、温泉専用軽トラを3万円で買って毎日家庭で温泉とか。
(うらやましい)

夕飯のあとは、麹室の隣りにある蔵座敷で杜氏さん、相沢さん、渡辺さんらと
秘蔵の酒を飲みながらコタツに入っての雑談です。二、三時間おきぐらいに麹
室での作業があるので、朝まで仮眠しかとれませんでしたが、学生時代を彷彿
とさせる楽しく貴重な一夜を過ごすことができました。ちなみに夜の作業とは、
『仕舞仕事』そして数回の『積替え』つまり麹の温度管理。同じ麹室でも場所
によって麹の温度に2゜Cぐらいの差があります。麹蓋を上下左右で入れ替える
ことで、温度の均一化を図るという地味な作業。グラフに記した温度曲線が計
画どおりに進むかをしっかりチェックします。

【蔵の設備】

翌朝は、麹以外の蔵の施設を案内していただきました。この蔵の素晴らしいの
は、麹だけではありません。搾りに関しても、吟醸酒の上槽には「袋吊雫酒
(首吊り法)」を採用しています。竹竿に酒袋を吊り下げ、雫酒として採取す
る方法で、最もピュアな風味を持つ酒となります。さらに、この雫酒を直接瓶
詰し、一本一本湯煎で火入れをし、徹底した品質管理のもと冷蔵貯蔵し出荷し
ています。

吟醸酒以上の洗米は、特製のステンレスカゴに水流できっちり60秒で洗い上げ
る方法を採用。静岡県の蔵でも水流で洗う機械を使用していますが、この蔵の
機械も原理は同じです。ただし非常にコンパクト(米10Kg単位)であるのが印象
に残りました。蒸し米には、甑(こしき)は使っておられません。甑というのは
水蒸気で蒸し上げる釜のこと。かわりに連続蒸米機で102゚Cで40分。一気に蒸し
上げる方法をとられています。

面白いのが、製造責任者相沢さん作の画期的な発明。それは、端桶(酒が満タン
ではなくなり、空気が入った状態)になった貯蔵タンクに、空気が入らなくする、
酒の保全と省コストのための方策です。大きな厚手のポリ袋に窒素ガスを送り
込み、それをタンクの上部口に取り付けて、抜く酒の量だけふくらませるアイ
デアで、専用の設備をするとタンク1本につき80万円位かかるのが、この方法
だと酒7000L分につき2,700円で出来るとか。まさに特許ものですね。


羽黒町猪俣新田というだけあって、
田圃の真中にあります。


昭和に建てられた社屋。


75゚Cの温泉がただで
持ち帰り放題。

奥座敷にて、杜氏さんたちと『秘蔵の酒』を飲みながらの一夜。

記念撮影。夜中の1時頃。

放冷機にて、安部さん(右)と修行中
の大学生菅井君。
槽(ふね)とヤブタ式搾り機(左)。

画期的発明の『端桶対策器具』
を説明する相沢さん。

【感謝】

いよいよ蔵をあとにすることとなりました。こちらを午前中に出たとしても、
浜松に着くのは夕方。まだまだお聞きしたいことがたくさんあったのですが、
仕事が待っているので仕方がありません。杜氏さんや相沢さんとも固い握手を
して、“竹の里”にさよならです。
6月には、浜松でお会いしましょうと固い握手を。
出羽三山に映える青空が、また来いよと、語りかけてくれる。そんな気がしました。
楽しく充実の二日間を過ごさせて下さったお蔵の皆様に、深く感謝申し上げます。
                               終わり
  

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